1年中きれいな花が咲く穏やかな野原がありました。普段は誰もが自由に散策し憩いの場にもなっているのですが、「日暮れ前、たまにお花を摘んでいるおばあさんがいて、その姿を見たものは殺される。」という言い伝えがありました。
その言い伝えのせいで、荒らされることなく穏やかな自然を保ち、そんなに多くはない散策に来る人も暗くなる前には居なくなってしまうのでした。
私もその野原が好きで、日中はお花を摘んだりお弁当を食べたり、でも夕方には絶対に近づかないようにしていました。
ある日の夕方、なぜかその花畑を通らなければいけないことになって、恐る恐る行ってみると、夕日をあびた花畑はいつにもましてきれいで、見とれるあまり言い伝えも忘れて楽しく通り過ぎようとしたその時に、お婆さんが花束を抱えて花畑から出る後姿をみてしまいました。
でも、おばあさんは私に気づいたそぶりでもなく、そのまま出て行ったので、ほっとして私も花畑を抜け、ただの噂だよねと思った瞬間、おばあさんが、見たでしょと言ってカマをもって襲いかかってきました。
私が逃げると、おばあさんは、なんで逃げるの?死にたくないの?と聞いてきます。私は「殺されるのは怖い。でもなんで殺すの?」と聞いてみると。
「私の容姿は醜くそのことだけで嫌われ疎まれ酷い目にあってきた。でも私はきれいなものが好きで、醜い私がキレイな花を摘んでいる姿が誰かの記憶に残ると思うと、それが惨めでいたたまれない。だから見た人を殺すんだ」
私はおばあさんの気持ちがすごくわかる。ぎゅっと抱きしめずにはいられなくなりました。「うん、わかった、それなら私は殺されるのが怖くなくなったから、いいよ、殺して。死ぬのはいいんだ。」おばあさんの肩は小さく硬く・・・。
「・・・・・今日は見られたことを私の記憶から忘れることにする。行きなさい・・・・。」
あぁ、助かったんだ。「ありがとう、でも行く前に肩を揉ませてね。すごく硬かったから」
すると突然おばあさんの周りが白く光って、お花に取り巻かれ、憑き物が落ちたようにやさしい顔になりました。